マグロが「どこの国で獲れた魚か」を化学分析で見分ける方法を、国の機関に作らせる法律が、10月15日にアメリカで成立しました。刺身やポケのような調理済みのものも、できる限り調べられるようにする、と条文に書いてあります。ハワイで部屋飲みをするとき、夫婦でよくアヒポケ(マグロのポケ)を買ってくるので、ポケの名前が法律に出てくるだけで、ついじっくり読んでしまいました。とはいえ、売り場の表示がすぐに変わる話ではなく、「表示が本当かどうか確かめる道具を作りましょう」という話です。中身を順番に見ていきます。
Law takes aim at illicit foreign ahi imports | Honolulu Star-Advertiser
A new federal law aimed at detecting undisclosed foreign imports of ahi and red snapper being sold as a domestic product may benefit Hawaii’s fishing industry and consumers.
ニュースのあらまし
成立したのはIllegal Red Snapper and Tuna Enforcement Act(イリーガル・レッドスナッパー・アンド・ツナ・エンフォースメント法)という連邦の法律です。米議会の記録では、法案番号は上院のS.283で、2026年10月15日にPublic Law 119-123(公法119-123号)として成立しています。
- 法案が出されたのは2025年1月。テキサス州のクルーズ上院議員が提出し、ハワイ州のシャッツ上院議員も最初から共同提案者に入っています
- 2025年7月に上院を通り、2026年9月に下院を通って、10月15日に成立
- 中身は、商務省の標準技術担当の次官(米国立標準技術研究所=NISTのトップ)と、米海洋大気庁(NOAA)の長官に、魚介類の原産国を見分ける標準的な方法を一緒に作らせるというもの
- 目的は、違法・無報告・無規制の漁業(英語の頭文字でIUU漁業と呼ばれます)と、産地や中身を偽って魚を売ることの取り締まりを支えること
ホノルル・スター・アドバタイザーの記事は、シャッツ議員が声明で、アヒがどこから来たかを見分ける強力な新しい道具を取り締まる人たちに渡す、といった内容のことを話していると伝えていました。法律の文面そのものは米政府印刷局が公開している条文で読めます。
条文に書かれていること
条文は短くて、本体は1つの条だけでした。読んでいて大事そうだと思ったところを表にしておきます。
| 項目 | 条文の中身 |
|---|---|
| 作るもの | 化学分析にもとづいて、魚介類の原産国を見分ける標準的な方法 |
| 作る機関 | NISTのトップとNOAAの長官が共同で(税関・国境警備局と沿岸警備隊にも相談しながら) |
| 求められていること | 連邦と州の取り締まりの現場で使えること/処理の時間をできるだけ短くすること/一人で楽に持ち運べるキットを使うこと |
| 調理済みのもの | できる限り、セビーチェ・刺身・寿司・ポケのような生の魚の料理も調べられるようにすること |
| 最初に試す魚 | レッドスナッパーとマグロ |
| 期限 | 成立から2年以内に、方法のまとめと実際に使うための計画を議会に報告する |
おもしろいなと思ったのは、最後のところです。報告の中で、もし方法の一部が実際には無理そうなら、その理由や、研究を足せばできそうか、化学分析以外のやり方ならできそうか、まで書くように、と決めてあります。「とにかく作れ」ではなく、「やってみて無理なら無理と報告していい」という書き方なんですね。
「まだ道具はない」段階の法律
なので、10月15日に何かが始まったわけではありません。ここから2年ほどかけて方法を作り、どう使うかの計画を議会に出す、という順番です。お店に検査員が来るとか、ポケの容器に新しい表示が増えるとか、そういう話は条文には出てきません。
対象になる魚は4種類
条文で名前が挙がっている魚は、次の4つでした。
| 条文の名前 | 日本語の呼び名 | ハワイでの呼び名など |
|---|---|---|
| Bigeye tuna | メバチ | アヒ(ハワイのアヒはメバチとキハダのこと) |
| Yellowfin tuna | キハダ | アヒ |
| Bluefin tuna | 大西洋のクロマグロ | ― |
| Red snapper | フエダイの仲間 | ― |
条文では、レッドスナッパーは「あまり遠くへ移動しない魚の例」、マグロは「海を広く回遊する魚の例」として、最初の試しに選ばれています。暮らし方の違う2種類で試して、どちらでも見分けられるかを確かめる、ということのようです。ハワイでアヒと呼ばれるメバチとキハダが、両方とも入っているのが目に留まりました。
7月に始まったハワイの表示義務との違い
ハワイでは2026年7月1日から、州の法律(Act 238)で、大きめのスーパーなどが生のアヒやポケを売るときに「どの国で水揚げされたか」を表示することが義務になっています。その話はハワイで生のアヒとポケに「水揚げ国」の表示が7月1日から義務化された話で書きました。今回の連邦法と並べると、役割がはっきり分かれています。
| ハワイ州の法律(Act 238) | 今回の連邦法(S.283) | |
|---|---|---|
| 始まり | 2026年7月1日から表示が義務に | 2026年10月15日に成立。方法づくりはこれから |
| 中身 | 売るお店に産地を「書かせる」 | その産地が本当か「確かめる」方法を作る |
| 対象の魚 | アヒ(メバチ・キハダ) | メバチ・キハダ・大西洋のクロマグロ・レッドスナッパー |
| ポケ | 味つけしたポケも表示の対象 | できる限りポケも調べられるようにする |
州の表示が始まってから3か月半ほどで、国のほうの法律が成立したことになります。表示は、書いてあることが正しくて初めて意味があるので、「書かせる」と「確かめる」がそろうのは、買う人としては心強い流れだなと思いました。
地元紙が伝えていたハワイのマグロ事情
スター・アドバタイザーの記事には、ハワイのマグロ漁の数字がいくつか出ていました。どれも記事の中で、ハワイ延縄漁業協会(Hawaii Longline Association)の説明として紹介されているものです。
- ハワイの延縄漁船はおよそ150隻で、アメリカで水揚げされるキハダの約60%、メバチの約95%を獲っている(記事による)
- その漁獲の70〜80%ほどはハワイの中で消費され、残りは本土へ(記事による)
- アメリカで食べられている魚介類の90%は輸入で、ハワイでは60〜70%ほど(記事による・協会の事務局長の話)
ハワイの外で揚がった魚がそれだけ多いなら、ラベルに書かれた産地をあとから確かめられる仕組みは、地元の漁師さんにとっても意味があるのかもしれません。スター・アドバタイザーも、この法律がハワイの漁業と買う人のためになるかもしれない、という見方で伝えていました。
記事には、議会予算局の見積もりとして、最初の機材に約200万ドル、人件費に年60万ドルほどかかる、という数字も出ていました。
アヒポケ好きの我が家が気になったところ
私たちはハワイで寿司屋にはあまり行きませんが、アヒポケは別ものとして、滞在中の定番のおつまみです。油ものやお肉に寄りがちな滞在中の食卓に、マグロのDHAやEPAをおつまみ感覚で足せるのがいいんですよね。買うのは、スーパーやポケ屋さんで味つけまで済んだ、出来上がったポケです。生のアヒの柵を買ってきて自分で味つけするのは、面倒でやっていません。
なので、条文の「調理済みのものも、できる限り調べられるように」というくだりには、ちょっと反応してしまいました。しょうゆやごま油、玉ねぎで味つけされたあとの一切れからでも、どこの国の海で育った魚かが分かるようになるかもしれない、ということです。料理になってしまえば産地は分からない、と何となく思っていたので、そこまで目指すんだなぁと感心しました。
奥さんに条文を見せたら、「じゃあ、ラベルに書いてあることを、あとから確かめられるようになるってこと?」と一言。そういうことを目指す法律みたいだよ、と答えたら、「書くのと確かめるのがそろって、やっと安心だね」と、表の中身をひとことでまとめられてしまいました。
滞在中の買い方は、今のところ何も変わりません
旅行で行く我が家から見ると、この法律で成立した日から何かが変わるわけではありません。ポケの値段や並び方が変わる話でもないですし、売り場で何かを確かめる手間が増えるわけでもありません。
変わるとしたら、2年ほど先に方法がまとまって、取り締まる機関が実際に使い始めてからです。それまでは、7月にハワイで始まった産地の表示が、買う人にとっての手がかりになります。次の滞在でポケを買うときは、容器のラベルの国名を、つい前より長く眺めてしまいそうです。
まとめ
- 10月15日に、マグロ3種とレッドスナッパーの原産国を化学分析で見分ける方法を作らせる連邦法(S.283・Public Law 119-123)が成立しました
- 一人で持ち運べるキットで、刺身やポケのような料理もできる限り調べられるようにすることが求められています
- 成立から2年以内に、方法と使い方の計画を議会に報告する段階で、売り場の表示や買い方がすぐに変わる話ではありません
- 7月にハワイで始まった産地の表示義務は「書かせる」ルール、今回は「確かめる」道具づくり、と役割が分かれています
条文と成立の日付は、2026年10月28日に米議会の公開している記録で確かめました。アヒポケを部屋で気軽につまむ私たちにとっては、その一切れの産地を誰かがちゃんと確かめられる時代に少しずつ近づいている、というのは、悪くない知らせでした。











