マウイ拠点NPO共著の研究、ザトウクジラが22年で約1.5万km移動の新記録。冬のワイキキ沖に来るあの種類の話
ハワイの冬の風物詩といえば、ザトウクジラ。11月から5月にかけてアラスカから南下してきて、ワイキキの海岸からも運が良ければ潮を吹くのが見える、あのクジラです。私たちはホエールウォッチングのツアーには出ませんが、ラナイ(コンドの広めのベランダ)から海を眺めている時に「あ、白いしぶきが上がった」と気づくと、それはそれで結構嬉しいタイプ。
そのザトウクジラについて、マウイ拠点のNPO・Pacific Whale Foundation(PWF)が参加した国際共同研究が、1頭のクジラがブラジル沖からオーストラリア沖まで約15,000km(約9,400マイル)移動したという記録的な事例を発表したそうです。ハワイ発の地味で誠実な研究の話なので、今日はこれを書きます。
ニュースのあらまし
Pacific Whale Foundation helps document a record-breaking whale voyage | Maui Now
The Pacific Whale Foundation has helped publish a new study that documents the longest individual humpback whale movements ever recorded—including one animal tracked crossing more than 8,700 miles between Brazil and Australia over 22 years. The foundation was a co-lead organization on the research, published May 20 in the journal Royal Society Open Science. The […]
マウイ・ナウの2026年5月28日付の記事と、研究本体(Royal Society Open Science誌、2026年5月20日掲載)の概要を整理するとこんな感じ。
- 研究主体: Pacific Whale Foundation(マウイ、1980年設立)、Griffith大学(オーストラリア)、ブラジルの研究機関(Instituto Baleia Jubarte、Projeto Baleia à Vista、リオグランデドノルテ連邦大学音響生物学研究室)、市民科学プラットフォーム Happywhale の国際チーム
- 記録的事例の中身: ザトウクジラ2頭が南米とオーストラリアの間を移動した記録
- クジラ1: 2003年にブラジル・バイア州沖で初撮影 → 2025年9月にオーストラリア・ハービー湾で再確認。22年間で約15,000kmの長距離移動
- クジラ2: オーストラリア・クイーンズランド〜ブラジル・サンパウロ間を12年間で移動
- 特定方法: ザトウクジラの尾びれの模様は1頭ごとに違う(人間の指紋に近い)という性質を利用。19,283枚の尾びれ写真を自動認識アルゴリズムで照合し、最後は人間の目で手動検証
- なぜ「記録的」なのか: 個体識別済みのザトウクジラのデータベース約20,000頭の中で、2つの繁殖海域(南米とオーストラリア)を行き来した個体が確認されたのはわずか0.01%(=2頭)。ザトウクジラは普通、繁殖海域に毎年戻ってくる「ふるさと帰省型」なので、これは極めて異例
ニュース本体は淡々とした学術記者の文体ですが、要するに「個体識別でしかわからない、ザトウクジラの想像以上に広い旅」が見えてきた、という話。19,283枚の尾びれ写真を照合して、20年越しで同じ1頭を見つける、というのは気が遠くなる仕事だなぁと思います。
ハワイの冬のザトウとは別個体だけど、同じ種の話
ハワイで毎冬見るザトウクジラは、夏にアラスカ南東部で餌(オキアミやニシン)をたっぷり食べて、冬にハワイ諸島の暖かい海で繁殖・子育てをする群れ。これは「北太平洋ザトウ集団」の話で、ハワイ⇔アラスカの片道約4,800km・往復で約9,600kmを毎年通っています。
今回の研究で記録された2頭は、南半球のザトウ集団の話で、ハワイで冬に見るあのクジラたちとは別の繁殖グループです。それでも「同じザトウクジラという種が、地球の反対側ではもっとスケールの大きい旅をしていた個体もいる」という事実は、毎冬ワイキキ沖で潮吹きを見ている身としてはちょっと感慨があります。
私たちはクジラウォッチングのツアー船には乗りませんが、冬のハワイで部屋やラナイから海を眺めている時に、不意に白い潮吹きが上がる瞬間はやっぱり嬉しい。あれを見ながら「このコ、もしかしたら去年もここに来てたんだろうな」とぼんやり思っていた程度の認識が、今回の研究を読んで「いやもう、この種類はそんな次元じゃない移動をしてる」と更新されました。
マウイ拠点のNPOが世界規模の研究を引っ張っている、というのは現地の財産
もうひとつ書いておきたいのが、Pacific Whale Foundation というマウイのNPOが国際共同研究のド真ん中にいる、ということ。マウイは観光客にとっては「ホエールウォッチングの聖地」というイメージが強い場所ですが、その裏側で1980年から45年以上にわたって、海洋哺乳類の研究・教育・保全をずっと地道に続けてきた団体がいて、世界中の研究者と組んで論文を出している、というのは現地の知的な財産だと思います。
観光業として「冬にクジラを見に船で出てください」と売ることもできる一方で、その同じ海でデータを取り続けて、20年単位で世界規模の発見に貢献する、という二段構えの仕事。マウイに行く予定があって、ホエールウォッチングのツアーを選ぶことがあるなら、PWF が100%所有しているソーシャル・エンタープライズ「PacWhale Eco-Adventures」のツアーを選ぶと、エコツアーや物販の収益が NPO 本体の研究・保全活動を支える仕組みなので、観光と保全が綺麗に繋がります(私たちは行きませんが、行く方には覚えておくと良いかも知れません)。
我が家の動き(今までと変わらず)
今回の研究を読んで「じゃあホエールウォッチング行くか」と急に動くわけではないんですが、冬のハワイでラナイから海を眺めている時の潮吹きの見え方が一段豊かになった気がします。「あの一頭は、私が見えていない夏のアラスカ南東部でどれだけ食べ込んで、ここに帰ってきているのか」「19,283枚の写真の中の1枚として記録されているのかもしれないな」と思うと、ただ見ているだけの時間が少し豊かになる気がしました。
派手なニュースではないですが、こういう「マウイ発の地味で誠実な研究成果」が世界に届くニュースは、ハワイのもう一つの顔として記録しておきたいなぁと思った1本でした。
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